2021年、神奈川県の道央地区を代表するターミナル駅・海老名駅のすぐ横に新たな鉄道博物館がオープンしました。その名もロマンスカーミュージアム。小田急の看板として活躍するロマンスカーをテーマにした博物館で、その歴史や歴代のロマンスカーの展示、シミュレーターなどの体験型コンテンツまで、子供から大人まで楽しめるスポットとなっています。今回はそんなロマンスカーミュージアムをレポートしていきたいと思います。
もくじ
小田急の悲願!開館までの軌跡
ロマンスカーミュージアムは、車両基地も有する海老名駅に隣接する場所に2021(令和3)年4月19日オープンしました。小田急といえば首都圏を代表する大手私鉄のひとつですが、各社自前の展示施設(※1)を持つ中で、小田急は長らくありませんでした。実は当館に展示している車両は、予定もない中でいつか来ると信じていたこの日のために、なんと現役を引退した後も保存し続けていたのです。
3000形SE車は海老名検車区内の車庫に。その他3100形(NSE)や10000形(HiSE)、20000形(RSE)は屋内型の車庫である喜多見検車区で雨風に守られながら、大事に大事に保管されていたのです。
いつかまた日の目を見ることを信じて待ち続けた歴代の車両に朗報が訪れたのは2018年4月、ロマンスカーミュージアム建設が発表されたのです。
海老名へのミュージアム建設を発表したのは、小田急の長年の悲願だった複々線化完成直後の2018年4月。計画自体は2011年ごろから検討していたというが、CSR・広報部の山口淳部長(取材時)は、「いつかこういった施設ができないかという考えはそれよりも前からあり、車両を保存し続けてきたのも歴代の経営陣がそういう気持ちを持っていたからだろう。その『いつか』がついに実現したという形」と話す。
東洋経済オンライン『「ロマンスカーミュージアム」実物11両の本気度』より
「いつか」を待ち続け今ココに実現した、小田急の歴史を示す場所。SE車に至っては引退から20余年この日を待ち続けたのですから、複々線化も然ることながら、ミュージアム開館もまた悲願のひとつであったことは間違いないでしょう。
余談ですが、施設内展示されているロマンスカーの車両以外に、通勤型電車として活躍した車両が海老名検車区の倉庫の中にも保存されています。
(※1)=代表するものとして、鉄道博物館(JR東日本)、電車とバスの博物館(東急)、東武博物館(東武)、地下鉄博物館(東京メトロ)などがある。
海老名駅を降りてすぐ!木製のロマンスカーがお出迎え
小田急線・海老名駅を西口へ向けて歩くとすぐ、木で作られたロマンスカーが出迎えてくれます。その横の入口で入場券を購入。入場料は大人900円、子供400円、幼児(3歳以上)100円となります(団体割引あり)。入場は原則として予約が必要としていますので、オフィシャルサイトより予約の上で当日入場券を購入する流れとなります。当日販売も予約に空きがある場合は可能ですが、10:30以降の販売となるのでやはり予約をしておくのがベターです。
入場ゲートすぐのエスカレーターを下ると、小田急の開業時に活躍したモハ1形。小田急の前身である小田原急行鉄道の開業とともに運行開始車両でまさに小田急のはじまりを象徴する貴重な車両です。
その横にプロジェクターで映し出される映像は、小田急とロマンスカーの軌跡をまとめたムービーが流れます。
歴代のロマンスカーが並ぶギャラリー
さらに奥へ進むとミュージアムのメインコーナーであるロマンスカーギャラリーへと繋がります。ここでは歴代で活躍したロマンスカーの車両を展示。一つずつご紹介していきます。
初代3000形・SE車(Super Express)。
1957(昭和32)年デビュー。新性能超高速特急車両として小田急と国鉄が共同開発を行い、デビュー当時には狭軌鉄道における世界最高速度である145km/hを記録。新幹線のルーツを築いた車両とも言われています。空気抵抗を減らすため前面は流線型とし、曲線の多い小田急において通過を用意とするために車両の連接部に台車を繋げる連接台車を採用。この構造は以降のロマンスカー車両にも採用されることとなりました。箱根特急として運用されましたが、後にJR御殿場線直通のあさぎり号を主に活躍。1992年に20000形RSEに置き換えられ引退となりました。
3100形・NSE(New Super Express)。
SE車の登場以来利用者増加により運用不足に陥っていたロマンスカーの輸送力増強を目的に1963(昭和37)年デビュー。11両編成という長い両数ではあるものの、実際は1両あたりの長さが12〜16mと短い車体。SE同様流線型の先頭車を採用しましたが、先端部分にも客席を設けたことで、ロマンスカーの代名詞とも言える前面展望構造を初めて採用した車両。運用範囲はデビューから引退まで一貫してあさぎり号を除くすべてのロマンスカー運用で活躍。30000形EXEと置き換えにより1999年にイベント用車両に改装した「ゆめ70」を除く車両が引退。ゆめ70も2000年に引退となりました。
7000形・LSE(Luxury Super Express)。
SE、NSEの後継車として1980(昭和55)年にデビュー。NSE同様の連接車体に展望席を有し、機能性や居住性の向上を図ったことで、名前の通りラグジュアリーなロマンスカー。構造上バリアフリー対応も可能だったことから38年と長きに渡って運行されてきましたが、2018年70000形GSEの導入により運用離脱。ミュージアム館内ではいちばん最近まで運行されていた車両です。
10000形・HiSE(High Super Express)。
開業60周年を記念して1987(昭和62)年にデビュー。車体はLSEにそっくりですが、導入当時のトレンドと車窓からの眺望性を高める目的から高床式構造(ハイデッカー)となっているのが特徴で、デビュー当時から小田急ロマンスカーを象徴する車両として活躍しました。しかし時代の流れがバリアフリー化に移行すると、ハイデッカー構造の当形式はバリアフリー対応が困難であることから、2012年に先代のLSEより早く引退しました。4編成が運用されていましたが、そのうち2編成が長野電鉄へ譲渡され、看板特急である「ゆけむり号」として今も元気に活躍しています。
20000形・RSE(Resort Super Express)。
あさぎり号として運行していたSEの後継車として1991(平成3)年デビュー。HiSE同様のハイデッカー構造が採用されましたが、これまで導入されてきた連接台車と展望席は当形式では採用されずボギー車となりました。またロマンスカーとしては初めて2階建て車両が2両連結され、特別席や個室席(JRでいうグリーン車に該当)車両として使われました。あさぎり号を中心に箱根特急などでも活躍しましたが、こちらもハイデッカー構造が仇となり2012年に引退となりました。2編成あったうちの1編成が当館に保存されていますが、もう1編成が富士山麓電気鉄道(富士急行)に譲渡され「フジサン特急」として活躍しています。
またギャラリー内のNSEとLSEの間にはマチカメという端末がおいてあり、頭上後方にあるカメラから2両のロマンスカーと一緒に写真を撮ることができます。
スマホからQRを読み込んだら、振り向いてポーズ!QRから開いたwebページにあるボタンを押すと撮影され、撮った写真を確認できます。写真はデータ1枚500円で購入できます。
模型で見る小田急沿線 ジオラマコーナー
ギャラリーから先へ進むと見えてくるのが、小田急沿線の街並みを再現して作られたジオラマコーナー。起点である大都会・新宿から沿線を代表する主要駅や、江ノ島、箱根に至るまでの風景が忠実に再現されている他、現在活躍しているものはもちろん、過去に活躍した小田急車両の模型がジオラマ内を駆け抜けていきます。
新宿駅と下北沢駅は2層構造までしっかりと作られていますね。また町田駅、相模大野駅もミニマムながら高い再現度です。
当館の最寄り駅・海老名駅や沿線の観光スポット・江ノ島や箱根もこの完成度。箱根湯本駅には箱根駅伝のランナーが駆け抜ける光景が再現されていたりと粋な計らいも。
小田急を見て、触れて、学び、体験できるコンテンツ
ミュージアム内は展示物だけに非ず、小田急にまつわるさまざまなコンテンツを用意しています。
ギャラリーの一角にあるロマンスカーアカデミアⅠでは、ミュージアム建設にまつわるヒストリー動画の上映、小田急の特集書籍の閲覧コーナーや一大プロジェクトであった複々線化事業の紹介、小田急の年表など歴史をより深く学ぶことができます。
ギャラリーから2階へ上がると左手に見えるロマンスカーアカデミアⅡは、壁に映し出された映像に手をかざしながら線路と街を作ることができるインタラクティブアート「電車とつくるまち」と7000形LSEの運転シミュレーター(500円/1回)など体験型のコンテンツとなっています。
その横のキッズロマンスカーパークはGSEとMSEを模したアスレチックと、ペーパークラフト(500円/1回)ができる子供向けコンテンツ。見て回るだけで飽き足らない子供たちが最後まで遊べて徹底的に楽しい場所であると言えますね。
屋上フロア・ステーションビューテラスでは目の前に見える海老名駅構内はもちろん、隣接する海老名検車区が一望でき、小田急の今を見ることができます。
ロマンスカーを味わうクラブハウスとグッズコーナー
ミュージアム出口の手前にある小田急の公式グッズショップTRAINS。模型やおもちゃ、雑貨など小田急やロマンスカーの人気グッズのほか、ここでしか手に入らないミュージアム限定のグッズも販売しています。
退場ゲートを出るとすぐ見えるのが、ミュージアム併設のカフェ・ミュージアムクラブハウス。フードメニューはハンバーガーやカレーがメインで、沿線で生産されている食材を取り入れているのだそう。また「走る喫茶室」として名を馳せた時代に提供されたメニューを再現した「日東紅茶とクールケーキのセット」などここでしか味わえない逸品も!こちらはミュージアム利用者でなくても入店は可能です。
まとめ
開業から110年余りが経ち「いつか」を夢見て活躍してきた車両を保存。その実現を果たした待望のミュージアムということで、ここに至るまでのヒストリーは私も陰ながら見守っておりました。2007年にはWeb上で「小田急デジタルミュージアム」なるバーチャル博物館を公開していた経緯があり、車両を保存していた事実も存じていましたので「小田急はきっと博物館を造ろうとしているのかな?」と思いつつも「そんな計画聞いたことないけど・・・実際どうなんだろう?」と多くの疑問が当時からありました。
そうした果てでのミュージアム開業ということもあって、その疑問の答えが正解だったこと。そしてそんな小田急の想いを知れたことから、私自身もグッと熱いものが込み上がりました。
また現役当時から大好きだったにも関わらず、残念ながら乗車を果たせなかった車両。それこそがNSEだったのですが、こうして20年もの月日を経てまた出会い、動くことはないとはいえ乗車を果たすこともできました。
こうしたいろんな人々の想いが詰められた夢のミュージアム。ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。